2008年02月27日

規制改革を進める委員の悪質性

昨今の社会格差の根本原因と考えられる労働格差について規制改革(要するに労働者保護規制の撤廃を進める)の旗振り役を努める「学者」の意見を読んで、驚きと言うか『こんな馬鹿が政府の中心にいるのか』と憤りを感ずることがありました。

民主主義社会では、結論の正当性とか内容が納得できるためには、色々の人の意見の存在が大前提です。しかし、その意見がそもそも論証に耐えられず、また明らかな誤謬を前提とする「意見」であるなら、このような「意見」から論理的に導かれた結論は、明らかに箸にも棒にもかかりませんから、議論自体が時間の無駄となり、結論も有害ですので、極力議論から排除しなければなりません。

これから、ご紹介する政策研究大学院大学教授の福井秀夫の「意見」はこの誤謬を前提(学者なら、嘘はない、と考える)とする「議論」であり、政府の「学者」として、社会に与える悪影響が大きいので、この様におかしな「議論」は徹底的に批判しておかなければなりません。さらにこの程度の連中が国の政策を論ずる中心に地位を有していること自体、この国の将来を心配する一人としては、耐えられません。

世間には、人を「洗脳」する為に「これが定説だ」などと、訳の分からない(前提事実も不明確で因果関係の推論が働かない)「議論」を展開する悪党がいます。このような「議論」は、日本人が議論とか討論が上手くできない、あるいはそもそも議論の仕方を学習していないことと大いに関係があります。

それ故、三段論法として『生徒は人間である。生徒は先生ではない。それ故先生は人間ではない。』との論法が間違いなのは中学生にも分かると思いますが、ではこの三段論法のどこが間違いかと言われても瞬間的にこれを説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。同じように『自衛隊は、非戦闘地域に派遣する。非戦闘地域とは、自衛隊が派遣されるところである。』との小泉首相のトートロジーも国会で「通用」してしまうお国柄ですから無理はないのですかね。

ところで、議論の手法で確実と言えるものは、19世紀の終わりから20世紀の初め、ウィーン学団という科学哲学者達の唱えた論理実証主義で「完全に実証的に証明されたことしか真実でない、という真理観だそうです。(佐藤優「国家論」70頁)

これは、誤解を恐れずに言いますと、議論は、実証的に正しいことを前提にこれを論理的に積み上げて新たな結論を示すものです。例えば、実証的に真実性が証明された有名な法則として、ニュートンの万有引力の法則があります。これは既に真実(実は、相対性理論前)と考えられていますが、ニュートンが「仮説」として万有引力の法則を発表した後、この仮説を前提に惑星の運動を調べ、これを万有引力の法則に従って計算したところ、新たな惑星が発見されて、万有引力の法則の真実性が証明されました。そこで、この法則を使って人工衛星を飛ばすにはどういうことが必要か、などと議論して一定の結論を出す事ができます。

しかし、社会科学の領域でも、この様に実証された真実を前提にしてのみ、議論を進めると真実の範囲が極めて狭いため、実際の議論ができなくなります。そこで我々は、真実の範囲を拡大して「当面の真実」(相対的真実)を前提に議論を進めることとなります。どのようにしてこの当面の真実性を決めるかと言うと、ある仮説について、様々な反証を提出しても、この仮説が反証に耐えられる限度において議論の道具として使えると考えるわけです。

繰り返しますと、「真理」が万有引力の法則のように全て実証的に証明されたものでなければならない、と言うことを前提としますと真実の範囲は極めて狭いものとなり、神でない人間の議論ができなくなってしまうのです。

議論するということは、この様に概念の整理とか、推論等の手続きが大変なことになり、この大変なところに、論理的におかしなことを意図的に忍ばせて自分の結論を「正しい議論・結論だ」と主張するエセ「学者」が出現することになります。福井の意見はおおよそこのレベルです。

大変長くなってしまいますが、曲がりなりにも政策研究大学院教授の見解ですからこの程度の前置きをして、この「学者」の議論のおかしなところを指摘しなければ、十分な反駁にならないと考えますので、ご了承ください。

福井は、週間東洋経済2月16日号で、この様に言っています。『@(注、引用目的でナンバリング、以下同じ)労働者の権利を保護すれば、強化された権利を持つ労働者の雇用を使用者が忌避するため、A正規雇用から非正規雇用へのシフトや労働者の雇い控えが起こる。B保護しようとすることが、かえって当の労働者を過酷な地位に押しやり、・・格差は助長される。Cこれはいわばニュートンの力学法則のようなもの』

また『D労使はむろん対等ではないが、E転職市場さえ大きければ、労働者も会社に対してモノが言える。』

皆さんいかがですか、@からAはともかくBは何ら論証もありません。Cは福井がニュートンを出していたから、前述しました。DからEも何ら論証もなく、現実の労働現場で『会社に対してモノが言える。』職場があると「思っている」事自体、できの良い中学生には失礼であるが、中学生レベルです。以上、およそ論理的とは言えないことを、堂々と大学の教授の肩書きで書いているのです。

結論として『その規制(一定期間経過後、企業には雇用申込義務がある)がなければ、正社員としては評価できないが、派遣で働いてもらいたい人材を企業は長期間雇用できる。正社員になれず路頭に迷うのと、派遣社員として働き続けるのとどちらがいいのか。』と、派遣社員を脅迫しつつ、現在の企業の雇用申込義務を敵視して、企業の都合で必要な人を長期間、あくまでも派遣として雇用できる規制改革が必要だといっているのです。

ついでに、笑っちゃうんですが、こんなことも言っています。『権利は強化するほどその保持者の保護になるという考え方は、よほどの特異な前提をとらない限り成り立たないものであり、圧倒的に多くの事象を説明できる原理的ロジックは、学術的に確立している。』と言っているのですが、学者を標榜するなら、特異でない事例をネタにして、『権利強化が、保護にならない』事例を一つでも出してみろ、と言いたいですね。でなければ『原理的ロジックは、学術的』なる一文は、正に『これが定説だ』と言っていたどこかの詐欺師と変わらないと思いますね。

大変長くなりましたが、お付き合いいただき、ありがとうございました。
posted by やすかね at 15:40| 千葉 ☀| 政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする