8月15日以来、トランプとプーチンを中心としたアメリカとロシアによるウクライナ停戦協議が大詰めに入ったように思います。17日の報道では,単なる停戦ではなくとトランプが「和平合意」になると発言したところ、これはではロシアに有利な合意になるとアメリカだけでなく西側諸国とマスコミも非難ごうごうですが、この様な「非難」は今までの歴史とロシアとアメリカの地政学的意味を忘れた観念論だと思います。
今回の会談が始まった直後、トランプは自分が大統領であったならウクライナ戦争はなかったと発言していますが、この発言は戦争の原因がバイデン大統領にあったと示唆しているように思います。ウクライナ戦争の根本原因は、バイデン政権とアメリカの支援によりNATOが旧東欧諸国へ拡大したことで、ロシアが防衛上の危機感を抱いたことにあるのですが、各国メディアは「和平合意」に反対するだけで、その原因を忘れています。 ソ連といまのロシアにとり絶対譲れない安全保障上の原則「敵対する国家との間に緩衝地帯を設ける。」が無視されれば戦争が不可避であることは、肝に銘じておくべきです。
この点、アメリカの情報長官トウルシー・ギャバードが『22年のロシアによるウクライナ侵攻の際に、米国と北太平洋条約機構(NATO)がロシアの「正当な安全保障上の懸念」を無視したことが戦争の原因であると、まるでロシアの主張を支持するような発言を行ったことで、多くの元外交官や安全保障上の専門家から、彼女の見解は米国の国家安全保障にとって危険であると批判された。』(『Wedge』8月号82頁 大野和基)と紹介されていますが、このギャバードの分析は、ごく最近の事である冷戦終結に至る歴史的経過を知っているだけで全く正論であることが分かります。この一点だけでも数十年遡るだけで西側諸国とそのマスコミが歴史も地政学も理解できていないことが分かります。
先ずソ連国内の経済的困難から冷戦終結に至り、世界平和は西側諸国の有利に進行してアメリカとソ連を両巨頭とする東西の根本的な対立がなくなり「歴史は終わった」との見解を述べる学者もいました。
しかし、冷戦終結によりワルシャワ条約機構が解消された一方NATOはそのまま存続しただけでなく、NATOは1インチも東に拡大しないと約束してロシアの国家の安全保障が約束されていたにも関わらず、NATOは舌の根も乾かないうちに、ロシアを仮想敵国としている軍事同盟であるNATOに旧ソ連系の東欧諸国が加盟することを認めてきたのです。今回のウクライナ戦争は民主党政権のアメリカとEUを離脱したものの陰険なイギリスがNATOの名を借りてウクライナに軍事支援をしたことで勃発しました。ロシアとすれば国境を接するウクライナまでがNATOに加盟することになれば、ロシアは国家防衛上の重大な事態に直面します。それは、かつてソ連がアメリカの喉元であるキューバに核兵器を持ち込もうとした「キューバ危機」の時のアメリカの驚愕と同じようにロシアの「国家防衛上の危機」だからです。
キューバ危機の時、ソ連は遠いところ(自国の安全上問題がない)でアメリカの危機を「持て煽んだ」のですが、今度のウクライナを含むアメリカとの和平は過去のキューバ危機の裏返しですから、今回の「ロシアの危機」に際し、アメリカが余裕を持つことができます。国家の連合体として共通の通貨はありますが、一枚岩でもないEU諸国が「国家の防衛上の問題」であるなどと議論しても日本は馬耳東風と決め込みトランプの「英断」を褒めたたえておけば良いと考えます。
地政学的考慮が働けば日本は第1次世界大戦のときと同じく「高みの見物」をしておればよいことで、一枚岩でもないイギリス・フランスなどに同調する必要もないでしょう。

