最近東京地裁で、本来従業員の横領事案を、部品の納品先と転売先など三者の共同不法行為などと構成した事件がありました。契約法で行くべきところ、いきなり不法行為です。思い出したのが、2010年08月06日のブログでした。若干編集し再掲します。
佐藤優氏が連載中の「知の技法 出世の作法」で『文章の読解力を飛躍的に向上させる手法』が書いてありました。
筆者は、読者から『勉強してもそれが知識として定着しない。』との相談に対し「勉強の仕方に問題があり・・日本語の読解が正確にできない、」「この問題を克服するためには、高校レベルの現代文を別の角度から勉強し直すこと」と解説し、大学受験参考書「出口汪『NEW出口現代文講義の実況中継@・A・B』(語学春秋社)」を紹介しています。
出口氏は、この参考書の中(孫引)で『現代文というのは、君たちの論理的思考能力を問う教科です。・・入試問題にはいろんな教科がありますけど、所詮・・論理と知識ですね。』『現代文で必要なのは、9割が論理的思考能力です。』要するに佐藤氏も「論理を無視した知識はすぐに記憶から消える。」と解説するのです。
受験生時代「理解できないものは、絶対記憶できない。」と考え、教科書が真っ黒になるほど線を引き学者の「論理」を「解読」しました。本が汚くなり、3冊買い換えた憲法の教科書もあります。
また、佐藤氏は「論理を読み解く意味で数学と現代文は近い」と解説しており、正に数学と現代文が「論理」で読み解くという切り口から見ると親和性が高くなるのですね。
弁護士になって、正に法律の文章は「論理的」でなければならないので、法律家には文化系人間より、理科系の人間が向いていると実感しています。
そこで、弁護士を始めて30年という先輩弁護士(横浜弁護士会)の文章を題材に少し「論理」を解説します。
この事件は、遺産分割調停のお話です。母親が入院先で亡くなり、一人が3日前に作成された遺言書で遺産の独り占めをしたらしいのです。
「怒った?」外の姉妹が横浜の弁護士に依頼して、遺言があることを前提として「遺留分減殺請求の調停」を申し立て後、(申立人の有利となる遺言の無効を争う趣旨で)入院していた病院の院長宛診療記録などを提出しろ、と顧問先の病院に照会してきて、本件が「発覚」しました。
「3、照会を必要とする理由」
「被相続人をAとする相続で、相手方が遺言者を被相続人とする遺言により遺産を単独で取得した可能性が強まったため、申立人らは千葉家庭裁判所に遺留分減殺の調停を申立て、第1回目の調停が本年7月〇日に行われた。その調停の席で相手方は被相続人を遺言者とする公正証書遺言を提出したため、申立人は初めてその場で公正証書遺言を読み、その内容の異常さと遺言作成が本照会先の病院の病室で遺言者の死の3日前に作成されたことを知り、当該公正証書遺言の有効性について強い疑問が生じた。当該公正証書遺言が無効なら、遺留分減殺の調停は成立せず、調停の続行は遺言書の有効を前提とすることとなった。そこで公正証書遺言嘱託当時の被相続人Aの病状を知る必要性が生じたために、本照会申出を行った次第である。」
「解読」が大変ですが、要するに、本来であれば、申立人は、相手方が公正証書遺言で遺産を独り占めにしたから、申立人の有利に調停を運ぶため、公正証書遺言が無効であるということを証明するために医師のカルテなどを取り寄せるなら、ご尤もですが・・そうではないんです。
通常は、遺産分割調停を求める申立人が@「法定相続分に基づいて遺産分割を求める。」というと相手方は、A自分が有利となる公正証書遺言などを提出し、仮にこれが有効であると、さらに申立人がB遺留分(親とか子どもの相続分は仮に遺言があってもその2分の1の相続分が遺留分として法律で保証されている)減殺請求をおこなうというのが「論理」です。
ところが、何を考えたか横浜の先生、先に遺留分減殺請求を申し立て、相手方が公正証書遺言を提出したので、そこで申立人が有利となるため遺言の無効を主張するため病院にカルテなどの提出を求めたはずなのですが、・・・しかし、3、照会を必要とする理由に書いてある通り「当該公正証書遺言が無効なら、遺留分減殺の調停は成立せず、調停の続行は遺言書の有効を前提とすることとなった。」というのです。
すなわち、頭がグラグラしますが、遺言が無効となり申立人が有利となるなら、自ら申し立てた遺留分減殺請求調停が成り立たず、逆に遺言が有効となって、申立人らが不利となるなら調停が続行できると言うのです。足元の梯子をのこぎりで切っているみたいです。
結局、自ら申し立てた調停を続行するためには、自ら不利益となる遺言の有効を証明することとなるためカルテの提出を求めているのです。訳が分かりませんね。
30年以上何らの問題なく、弁護士家業を継続してきたべテラン弁護士が「非論理的」法律構成を行いつつ病院にカルテを提出しろといって僅か240円の切手を貼った封筒を同封してきたので、顧問先の病院の院長先生、私に向かい「先生!弁護士会ってのは、どうなってるんだ」と連絡をよこしたのです。
そこで僕は、院長先生に対し『先生、先生の品格を欠くような言い分は、僕に任せてください!』と電話をして、ブログを書きました。
相続に事件では、被相続人の死亡で相続が開始、@原則は法定相続分に基づいて分割する、A例外として遺言があるので、これにより遺産を分割する、これで不利益を受けるものは遺言が無効と争う、無効なら@の原則に戻り、B遺言が有効なとき、遺留分減殺請求をする。
横浜のセンセイ何を間違えたかというと「遺言があるらしい」との考え、そこからA遺言の有効無効を考えずにいきなりBを提起したことで頭がグラグラしたんでしょうね。
仮に遺言があったとしても@から行くのが相続の「論理」であり、「法定相続分の請求には遺留分減殺請求も含まれる。」という常識(大は小を兼ねる)を知らなかったのでしょう。
2019年01月30日
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