2017年07月03日

起訴「独善」主義

国家の権力行使は、税金徴収の外に、刑事裁判で具体的になります。刑事事件は、検察官の起訴独占主義で始まり、裁判官の判決、刑事施設での犯罪者の矯正教育により、我が国の治安が維持されることが建前となっています。
今や人工頭脳が発達し、医師だけでなく裁判官・検察官も具体的に創造的な応用力を発揮できずに、ルーチンワークに流れるなら、統計資料を駆使したコンピューターに判断を任せたほうが「具体的な正義」が実現するかも知れません。
 平成28年末、窃盗被告事件の国選弁護人に就任しました。被告人は昭和23年生まれの68歳、昨年5月午前4時前頃、茨城県龍ヶ崎で会社の社長が趣味で設置してあった二宮金次郎の銅像前の賽銭箱から1200円を窃取した、という事案でした。
証拠によると、被告人は平成24年4月、自転車窃盗、賽銭ドロボウで懲役1年、執行猶予3年の有罪判決の言渡しを受け、翌年5月占有離脱物横領で逮捕勾留され、懲役5月の実刑判決を受け、平成26年8月両刑の執行が終了した。それから約2年足らずで、1200円の賽銭ドロボウをしたことで、本年6月29日、龍ヶ崎支部で懲役1年2月の実刑判決を受けました。
 被告人は、名前を書くことも字を読むこともできない知的障害者であるものの、いつもニコニコしていて、凡そ危険な犯罪者といえる様子は、うかがい知れません。姉いわく「あれは、10円玉が大好きなんだよ。」
1200円の賽銭ドロボウが検挙されたことから、被害者の供述調書もつくられないまま、前科があると言うことで副検事が起訴したことから、被告人は正式な刑事裁判の手続きに載せられることとなりました。
 その結果、本当にどうでも良いような「事件」に対し、裁判所・検察庁・弁護人などが事件処理を行わざるを得ませんでした。その費用たるや、計算が出来ませんが、裁判官・書記官、検察官・事務官、弁護人など(法テラスも入る)の裁判だけで100万円は下らないでしょう。さらに護衛付の刑務所で、効果は期待できない矯正教育の1年間は、国費千万円以上かかることとなります。
この事件、2月1日の第1回の公判前、事務所から被告人宅(検事に問い合わせた?81歳の姉の携帯)に電話したところ、「〇〇は、今家にいない。〇〇は自分の名前も書けないし、千葉の裁判所までは行けない。」と言われたので、その旨裁判所に連絡すると、「先生の方で出頭確保できませんか。」などと、暗に弁護人が被告人の家まで迎えに行って、連れて来いと打診されました。
 しかし、被告人の出頭確保は、裁判所(検察庁)の仕事のはずですから、「それは、弁護人の仕事ではありません。」と断ったものの、第1回の公判前に被告人との面談をする必要があるので、1週間で5〜6回姉に電話したところ、漸く1月24日被告人が戻ってきたと言うことで「では、今日の午後伺いますので、家に居るように伝えてください。」と姉に伝えました。
 急遽、高速で成田まで、さらに栄町の自宅に行くと、難聴で電話では話ができなかった被告人と81歳の姉と脳梗塞を患っている姉の長男3人がTVを見ていました。
声を張り上げ、「2月1日の裁判に行けますか。」と言うも被告人は「行けネェーな」、姉も、「龍ヶ崎なら、脳梗塞を患っている長男の運転で、なんとか行けるが、千葉まではとても無理だ。」ということで、被告人に裁判かあることと、賽銭ドロボウをしたのか、と確認し、本人の写真と家族の写真などをとって、裁判所への報告書を提出して、2月1日の公判を迎えました。
 案の定、被告人は出頭してきませんでしたので、裁判官と検事に「なぜ、こんな事件を起訴したのだ。本人をみれば裁判などしても意味のないことだ。公訴権濫用であるから、取り下げろ。」などと強く申入れしたものの、公判担当の検事も裁判官も、起訴されてしまった以上後戻りも出来ませんでした。
 事務所に戻り、再度姉に電話して、龍ヶ崎なら出頭できることを確認して、裁判所に報告したところ、千葉地裁は事件を水戸地裁竜ヶ崎支部に移送した、との決定書が事務所に届きました。法テラス、龍ヶ崎支部などと連絡を取り、行きがかり上、事件を受けることとなりました。
 自分の名前もかけないし、字も読めない、電車にも乗れない知的障害者に対して公判請求することの無意味さを糾弾したかったからです。本来であれば、限定責任能力で精神鑑定など求めるなら、それも良いのでしょうが、これ以上の費用と手間を煩わす必要もないので、被告人に罰金刑を言渡し、これを執行猶予にすれば、「一件落着」と考えたからでした。
 公判では、今そこにいる被告人が本人であることを確認する手続きである人定質問では、被告人は、自分の生年月日も分からずに、裁判官から何度聞かれても、また傍聴席のお姉さんから、「昭和23年だ」などと言われても、被告人は昭和35年5月30日といい続けました。これで、人定質問が「完了」したか分かりませんが、とにかく公判は、冒頭手続きから証拠調べ、論告求刑(懲役1年6月)、弁論で公判が終了しました。
終了後検察官と話をすると検察官は、「松戸の事件で罰金刑を言渡した事例があるようだが、ここの裁判官は、真面目な人だから」と弁護人が主張する罰金刑など見込みがないような様子でした。 この事件は、千葉の副検事が事件の具体的内容を検討もせず、安直に起訴したとしか言い様のない無意味な事件(私見)で裁判官も先例に従い、懲役1年2月の実刑判決を 下したのでしょう。
 気の毒なのは、被告人です。自転車ドロボウは、駐車禁止とともに検挙すると警察官の点数が上がるので、警察官は、訳もなく職務質問を連発して、所有者も良く分からない自転車のドロボウとか、占有離脱物横領の検挙に励むのです。賽銭ドロボウも子供の犯罪として見られる事件ですが、毎日庭先の草取りに励んでいる10円玉の好きな被告人は、多数の先例通り、実刑の判決を受けてしまいました。
 私としては、裁判官が先例などに囚われることなく、罰金刑を執行猶予にすれば、これ以上無駄な手間とか国費が費やされることもないと思うのですが、実刑判決が出た以上、具体的事件処理にあたっての検察庁の判断、及び先例の殻を敗れずに、事件が自分の手を離れれば「一件落着」と考える裁判官に一定の反省をしてもらうべく、控訴して限定責任能力から争い、被害者の処罰感情などを公判で明らかにさせる必要があると、息巻いているところです。
 実に、馬鹿馬鹿しい、組織で動く国と頭突きしても個人が痛い思いをするだけでしょうが、副検事の後始末(個人的には、被告人の状況など総合考慮して、被告人と家族に厳重注意をして不起訴で十分)をするためには、東京の弁護士さんに国選をお願いするのも、業務拡大の一途でしょう。まさか、検察庁が、名前も書けず、控訴の取り下げなどという法的知識など理解不可能な被告人を「説得」して、被告人しかできない控訴の取り下げなどさせないか、心配です。
最後に、本件は被疑者段階で弁護人がついていませんでしたが、国家の治安維持に国費が如何に使われているか、特に犯罪者の特別予防は具体的にどうすべきかなど、刑事政策を理解している弁護士が副検事と交渉できる機会があれば、今回の「事件」はなかったかもしれませんね。
posted by やすかね at 21:27| 千葉 ☁| Comment(0) | 法律 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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